世界一『感じの悪い』駄菓子屋さん

〜駄菓子屋のドーラ〜 太平

実家のそばにあった駄菓子屋は、天空城ラピュタのドーラを100倍感じ悪くしたような老婆が営んでいた。

お前は何の為に店をやっているんだ?と子供ながらに不思議に思った。

キッズがお菓子を選んでいると『盗るんじゃないよ!』と至極当然だけれど、決して言ってはいけない呼びかけをし。クジなんかが当たって喜ぶと『菓子ぐらいでガタガタ騒ぐな』と野太く悪態をつく。ドーラ、お前は何の為にクジを置いた?

駄菓子屋のお婆さんというものは、子供が大好きで、常にニコニコしていて。採算よりも子供の笑顔が好きだからやるんじゃないのか? イヤイヤ駄菓子屋をやることは、人を呪いながら献血するくらい恐ろしいことだと思う。

そういう意味でドーラは『駄菓子屋の当たり前』を破壊した、実にイノベーション的存在だった。
いつも古いサンダルをはき、常に『なべつかみ』のような服を着ていた。

私の親友の山下君などは、こともあろう購入したベビースターヌードルを店の中で開封しようとし。パーティー開けの勢い余って大散乱。春先に飛散する杉花粉がごとく、小物体を店内にぶちまけた。

刹那

ドーラ『そうじぇしぇいえぇえぇええええ!!!』

山下君はコンマ1秒ほど顔を引きつらせ、50メートル走のピストルが放銃されたかのように、店外に掛けだす。こういうときに『脱兎のごとく』などという表現が使えるとカッコイイ。しかし私は兎が『脱』するところを見たことが無いため、イマイチ分からない。兎に角

ドーラ『そうじぇしぇいえぇえぇぇえぇえー!!!!』

ドーラは立てかけてあったホウキをおっ取るや否や、山下君を追跡。履き古したサンダルがベタベタと音をたて、『なべつかみ』から飛び出した腕が、ホウキを軽やかに掴んでいた。
僕はその日生まれて初めて、がに股でホウキを振り回しながら走る老婆を見ることになる。

いったいどうなるのだろうか。

親友の大ピンチにも関わらず、僕の胸は高鳴る。幼ながらに『もう二度と絶対にこの絵づらは見られない』そう確信していた。実際にそれ以来見ていない。あえて言うが、目に焼き付ける必要は無い。焼き付く。忘れたくても忘れられない。忘れたい。

若い人がよく言う『これを目に焼き付けます。絶対に忘れません』
違う
本物は焼き付く

とにかくドーラのがに股ダッシュは意外にも速かった。捕らえられた山下君は、地面に組み伏せられ、ホウキの毛がボーボーの方で顔をザシザシされながら『そうじぇえ、そうじぇえ』と言われていた。魔女って本当にいるんだって思った。

僕はドーラが『掃除しぇー(しろ)』と言っていることに気がついた。
ホウキと『そうじぇえぇ』の関連がわかりホッとしたが、山下君は過呼吸になるくらい泣いた。そして掃除させられた。なんかよく分からんけど、全然関係ない棚とかまで拭かされていた。当然のように僕にも雑巾が廻ってきた。数年後、慰謝料と連座制いう言葉を知ったとき『ピン』ときたのは、この記憶のおかげだと思う。

隣で泣きながら棚を拭く山下君を見ながら、僕は『ここでもう一回、ベビースターラーメンぶちまけたらどうなるんだろう?』とニヤニヤドキドキしていた。

つづく

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です