金のなる木に手紙を添えて
太平は何かを育ててみたくなり、家庭菜園にチャレンジしたことがある
選んだのはシソ(紫蘇)
シソは初心者に優しいような気がしていた
何の漫画だったか思い出せないのだけど
『金のなる木ってシソのことだったんだね』というセリフが頭に残っていた
たしかに夏になると、何の手入れも必要無く、ワシャワシャと無限に生えてくるシソ
実家の庭にもあった
そうめんを茹でる度に、庭に採取に行き
とれたての薬味を楽しんだ
シソのあの味は一体なんと表現したらいいのだろう?
甘くも辛くもない。鼻に抜ける、清涼感とかすかな苦味
もちろん、淡白なそうめんに爽やかさターボをかけるのも良いけれど
豚肉と一緒に炒めれば、脂の甘みと相まって、ご飯をがぶ飲みしてしまう
とにかくシソは美味い。シソンヌは芸人。上手いけど関係ない。
シソはスーパーで買えば10枚で100円くらいする
なるほど『金のなる木』、分からなくも無い
長方形の植木鉢を庭に設置し、シソの種を蒔いた。
種を蒔く楽しさは、未来の自分へプレゼントを贈る楽しさである
半年後、一年後の自分へ手紙を書く楽しさにも似ている
未来の自分の口に届くのだろうか?
とにかく種を蒔く
水をやる、ワクワクする。こんな小粒に、人生の面白さが全て凝縮されているような、そんな錯覚を覚える。
芽が出るのを楽しみに待つ。まだかなまだかな。マナカナは双子の芸能人。関係ない。
小さな黄緑色の芽が茶色い土からひょっこり現れる。なんと可愛いことか。オッサンが1人、土をみて高まる。それはそれはエコノミー
そしてグングン大きくなる
しかしどうやら種を蒔きすぎたよう。植木鉢がみるみる手狭になる。
調べてみると、この大きさの植木鉢には2−3本で十分とのこと。涙をのんで間引く。土は厳しさも教えてくれる。
残した3本のシソは何枚も大きな葉を茂らせるに至る。
いよいよ収穫だ!この為に種を蒔いたのだ。うきうきと庭に出た僕に、走る衝撃
食べ頃だと思っていた葉全てが、虫食いだらけのズタボロ! それはもう、食べられるところが無いくらいに!
結局僕は、ただただ虫のエサを量産したという結果だった。植木鉢でセッセと虫のエサ
僕の口には1枚も入らない。虫も生産者に気を遣ってくれたら良いのに
『2枚くらいは残しとかないと、あいつ来年やる気なくすぜ? 共存のために2枚は無傷、それがバランスだよ』
そういう提言ができる賢虫はいないのかね? そんな感じで君たち、虫も僕の中に種を蒔いたらどうなの? 愛する子孫のためにっ!
そのまま植木鉢は庭に放置。シソは一年草なので冬がくると枯れてしまった。
僕は夏からの数ヶ月を思い、ちょっと切ない
僕に食べられること無く枯れていったシソ。シソからしたら葉を食べられるために生きているわけでは無いだろうから、知ったこっちゃ無いのだろうけど
その次の夏。植木鉢を置いていた付近から何やら植物が生えている
近づいてみるとそれはシソだった。
いつの間にか花・種をつけ、それが庭の土に落ち、芽を出し、肥料も無いのに大きくなっていたのだ
植物の力強さを思い知る
彼らは彼らの手紙を書くようだ
もしかしたら虫たちからの『お返事』なのかも知れない